ムネモシュネ

記憶とはこんなにも不死

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

祈りについて

私は少し祈っている。無事に終わりますように、何も変わりませんように、できればよい方向へ進みますようにと。 祈りとは、変えようのない現実を、少しでも心安く受け入れるための行為なのだ。私が幸せという贅沢を願ってしまっているときに涙が出るのは、結…

『あらゆる名前』ジョゼ・サラマーゴ

戸籍管理局に勤める実直な男が主人公の小説。 彼には有名人のプロフィールをスクラップして収集するという趣味がある。 ある日誘惑に負けて禁を犯し、ただ趣味のためだけに有名人の戸籍を覗き見てはその内容を複写するようになる。やがて有名人のみに飽き足…

アンテナを立てられるか

雑学が好きだ。 昨日はイタリア語の語源や派生語の話にときめき、今日は生化学の入門書に萌え萌えする、というように。雑学と読書が好きで、勉強は好きかどうかちょっと分からない、学校は大嫌いだった。文学マニアの端くれとして、面白い本を見つけたらここ…

左手を差し出す

どんなに残酷なことでも、 何かを知りたくなかったと思ったことがない。それは私が「真実はそれ自体が価値あるものだ」「真実を知った自分の悲しみなど、取るに足らないものだ」と考えているからだけど、 (たとえば、「親が自分を愛していない」とは、悲し…

私の持たない美徳

バイトの先輩である山内さんは誰にでも親切なおばさんだ。声は大きく張りがあり、髪は赤っぽく染めている。笑うときには顔の筋肉をめいっぱい使って笑う。不機嫌にしているところなど、きっと誰も見たことがない。その山内さんが休憩中、いつもの笑顔で話し…

このブログについて

新しい日のはじめとはいうもののあしたも歌う記憶の女神ブログ名:「ムネモシュネ」 筆者:絵馬泉(えま いずみ) 空想と過去のスクラップノート、あるいはフィクション混じりの日記として。

なれないからこそ憧れる、とも言う。

憧れるものならいくつでもあった。誰かに憧れることと自分を否定することは、最初から同じことだった。そうしてそれがいつの間にか苦しくなっていた。 やがて私は憧れの人たちのようになることをあきらめた。ああはなれないと分かりきってしまったものにすが…

『アリー/スター誕生』を観た

タイトルの通り映画を観に行った。ネタバレ注意。 天性の歌声をもつけれど町のクラブのいち歌手に埋もれている女性(レディー・ガガ)と、田舎の農場生まれで既に成功したボーカリスト兼ギタリスト(ブラッドリー・クーパー)の、出会いから別れまでの話。 …

バッハと悪癖

クラシック音楽を聞くような家庭に生まれ育ったわけじゃないけれど、バッハの良さについて語ってもいいかい。一言「完璧に美しい」で済むんだけれど、それでは身も蓋もないので、たらたら語ってみる。バッハの美しさって、人間味と神々しさの絶妙な両立にあ…