ムネモシュネ

記憶とはこんなにも不死

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『インド倶楽部の謎』有栖川有栖

アリスと火村に、それぞれささやかだが見過ごせない変化があった。まず、『菩提樹荘の殺人』のときと比べて、アリスが火村に焦りを抱かなくなっている。「このどこか危なっかしい男を友として見守っていたい」というアリスの思いにはこれまで焦りが含まれて…

『何があってもおかしくない』エリザベス・ストラウト

アメリカの田舎町で展開される小さな事件と、その後を生きる人々の物語。 人生は「何があってもおかしくない」。何かが起きたあと、人は風のように消えるなんてことはできなくて、霞を食って生きていくこともできなくて、じくじくと疼く生傷やしがらみを抱え…

『わたしの名は赤』オルハン・パムク

『わたしの名は赤』オルハン・パムク/宮下遼訳 ハヤカワepi文庫 以前単行本の和久井訳で読んで挫折した本。文庫に切り替え、最初から読み直してみた。まず文章が美しい。記憶の中の和久井訳ほどではない(と思う)けれど、ゴブラン織の絨毯のように絢爛な文…

『フラジャイル』ぎりぎりの正義

『フラジャイル』草水敏・恵三朗/13巻を読んだ。 今巻もめちゃくちゃ面白い。 人は一体どのようにして、こうした正義の基準を自己の内に養うのだろうと思う。本当に不思議で魅力的だ。 医者サイドの主人公が岸先生なら、製薬会社サイドの主人公は間瀬さん。…

『熊と踊れ』

北国の荒涼とした雪景色そのままを写し取って成長したような三兄弟の心。それがまざまざと見える文体に好感を持った。何かの台本のように一文は短く説明的ですらある。いかにも寒々しく、それがいいのである。三兄弟は、特に長兄のレオは、幼い頃からおのれ…

『ムーン・パレス』ポール・オースター

オースターの評判を聞いて気になっていたので図書館で借りて読んだ。訳は柴田元幸。軽やかな文体。水が流れるような酩酊。酒に飲まれているのに酒臭さがない。この野原の風景を壁に描いた無菌室のような文体はどこから生まれるのだろう。オースターの(ある…