ムネモシュネ

記憶とはこんなにも不死

『ムーン・パレス』ポール・オースター

オースターの評判を聞いて気になっていたので図書館で借りて読んだ。訳は柴田元幸

軽やかな文体。水が流れるような酩酊。酒に飲まれているのに酒臭さがない。この野原の風景を壁に描いた無菌室のような文体はどこから生まれるのだろう。オースターの(あるいは柴田元幸の)、何に拠っているのだろう。

くるくるといともあっけなく堕落していく主人公は、もう少し早く人に助けを求めていれば、ああまでならずに済んだろうにと思ってしまう。
落下しながら、いつか地面に衝突するのを待っている彼の内面は、正直、いま覗くのは辛い。
だから途中で(しかもまだ序盤で)この本を置こうと思う。
この本は今の私とはマッチしなかった。あるいは、あまりにもマッチしすぎて苦しかった。