ムネモシュネ

記憶とはこんなにも不死

『熊と踊れ』

北国の荒涼とした雪景色そのままを写し取って成長したような三兄弟の心。それがまざまざと見える文体に好感を持った。何かの台本のように一文は短く説明的ですらある。いかにも寒々しく、それがいいのである。

三兄弟は、特に長兄のレオは、幼い頃からおのれの腕力を磨き、弱肉強食の世界を生きている。
「ナメられないこと」。これは三兄弟にとって非常に重要なことだ。平和な動物園のような所でぬくぬくと暮らす人間ならいざ知らず、この三兄弟は世界と切り結び続けなければならなかったのだ。どことなく『悪童日記』を彷彿とさせる。

冷酷な現実を前にしてかつての幼い彼らが選んだのは祈ることではない、武器を磨き、ほんの少しでもヒエラルキーの上へ登ること。その志向はやがてスウェーデン史上最悪の銀行強盗計画へと発展していく。
弱き者よ、庇護なき弱き者よ。祈る暇があるなら、「熊と踊れ」。